東日本大震災後変化した
オール電化住宅と創エネ・蓄エネ機器の動向を調査
―2011年度見込―
オール電化住宅 年間50.1万戸(前年度より5万戸下回る)/累計485.5万戸 普及率9.7%
住宅用蓄電池市場 850件(前年度比:13.1倍)
―2020年度予測―
オール電化住宅 年間61.8万戸/累計981.5万戸 普及率19.6%(住宅5戸に1戸が電化)
住宅用蓄電池市場 20,120件(10年度比:310倍)
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋小伝馬町 社長 阿部 界 03−3664−5811)は、2011年5月〜9月にかけて国内の住宅のエネルギー需要動向調査を行った。
需要家の争奪戦が繰り広げられている「オール電化住宅」と「ウィズガス住宅」の競合状況、創エネ・蓄エネ機器の普及状況、住宅向けのエネルギー機器の市場動向を調査した。
その結果を報告書「エネルギー需要家別マーケット調査要覧 2011 住宅分野編」にまとめた。
<調査結果の概要>
■東日本大震災によるオール電化住宅/ウィズガス住宅への影響
2011年3月11日に発生した東日本大震災により、住宅におけるエネルギー需要動向は大きく変化している。
電力会社は、オール電化住宅を推進し、TVCMをはじめとする大々的な広告宣伝活動を行っていたが、震災以降は節電協力の呼びかけを行い、オール電化住宅の広告宣伝活動を全面的に自粛している。
ガス会社はオール電化住宅に押される形で苦境に立たされていたが、既存顧客への訪問活動や、オール電化対抗の切り札と位置付けてきたエネファームの営業などにより、ガスから電力への離脱も徐々に鈍化し、震災を契機としてその傾向が一層強くなっている。
●東日本大震災によるオール電化住宅市場の予測変化
※表資料は、添付の関連資料を参照
震災発生前、2011年度は58.4万戸を見込んでいたが、50.1万戸まで落ち込む見通しである。2010年度の55.4万戸より5万戸強の減少が見込まれ、2006年度の水準まで後退する見込みである。これには大きく2つの理由が挙げられる。
1つ目は、震災直後からのオール電化機器の調達不足である。機器の部品や原料メーカーの工場が被災し、4〜6月頃まで供給が滞り、生産量が大きく減少した。機器の供給が困難になったことにより、オール電化住宅数が減少した。なお、7月以降は機器の調達状況も改善しており、オール電化住宅数も既に増加に転じている。
2つ目は、既築オール電化住宅件数の減少であり、2011年は従来予測より7万戸強の減少が見込まれる。減少数の半分は関東エリアでの件数減少によるもので、特に原発事故・節電意識の高まりなどを背景としたオール電化へのマインド悪化などにより急減し、2012年度以降も市場への影響は残ると予測される。他のエリアでも既築オール電化住宅件数の減少が見込まれるが、2011年度下半期以降前年度並みの水準に回復すると見られ、2012年度には震災以前の水準に戻ると予測される。
電力会社はエンドユーザー向けの広告宣伝活動を自粛する反面、ハウスメーカーや地元工務店等のサブユーザーへの提案活動を積極化している。また、サブユーザー側でもランニングコストなどオール電化住宅関連商品の評価は高く、従来の拡大姿勢に変化は見られない。
電力会社の推進により拡大してきたオール電化住宅市場は既に電力会社の手を離れつつあり、市場の成長は長期的トレンドとして今後も継続し、2020年度には国内の全住宅戸数の約2割がオール電化になると予測される。
●東北エリア
【新築電化:11年度見込 2.1万戸(前年度比80.5%)/20年度予測 3.1万戸(10年度比114.7%)】
東日本大震災により、住宅の累計数は411万戸から388万戸に減少した(2010年度末時点)。2011年度は住宅の新築よりも仮設住宅の設置、修繕、リフォームが進められ、新規着工住宅数は前年度比15.9%減の4.3万戸と見込まれる。2012年度以降は復興需要に伴い、毎年度5〜6万戸と震災前よりも上回ると予測される。2011年度のオール電化住宅は、新規着工住宅数と同様に減少するが、電化採用率は微減に留まる(52.3%→50.0%)と見込まれる。2012年度以降は新規着工住宅数の増加により電化採用率は45%程度と減少が予測されるが、戸数ベースでは2.5〜3万戸と震災前以上の規模で推移すると予測される。
震災により電気、ガス、水道などのインフラが停止したが、電気→水道→ガスの順番で復旧した。東北エリアでは春から夏にかけて計画停電や節電要請が行われていたが、震災時の復旧の早さが評価され、電力供給不安がオール電化住宅の評価を下げる結果に直結しなかったと見られる。
●関東エリア
【新築電化:11年度見込 7.7万戸(前年度比87.5%)/20年度予測 8.8万戸(10年度比100.0%)】
【既築電化:11年度見込 5.3万戸(前年度比77.9%)/20年度予測 7.9万戸(10年度比116.2%)】
東日本大震災による住宅の累計数や新築着工住宅数などの大きな減少は見られない。2011年度のオール電化住宅は、ユーザーマインドの悪化や将来的な電気料金の値上げ懸念などにより、着工数・電化採用率共に減少が見込まれる(採用率:25.5%→22.4%)。しかし、住宅の累計数や新築着工住宅数の増加によりオール電化住宅も一定の需要を獲得し、2020年度には震災以前の2010年度水準に回復すると予測される。
関東エリアは既築電化市場の拡大を牽引していたエリアであり、2010年度の既築向け電化市場の25%を占めていた。しかし震災により件数が減少、市場は長期的に低迷する可能性が高いと見られる。
■創エネ・蓄エネ機器普及動向
●太陽光発電
【市場規模:2010年 21.8万件/2011年見込 25.3万件/2020年予測 69.1万件】
住宅向け太陽光発電は、2010年度の余剰電力買取制度の開始により2009年度の14.3万件から前年度比52.4%増の21.8万件と大きく拡大した。震災以降、唯一の自立運転が可能な創エネルギー機器として需要が増加しており、2011年度も市場の拡大が見込まれる。今後も補助金や余剰電力買取等の制度の継続により、安定した市場拡大が予測される。
エリア別には、住宅数が多く潜在マーケットが大きい関東・中部・関西や日射量が多い中国・九州で導入が進んでいる。住宅形態別には戸建住宅が多く、全体の70%弱が既築住宅への導入となっている。
【太陽光発電+オール電化住宅】
2010年度時点で太陽光発電を設置している住宅90.7万戸の内、オール電化を採用している住宅は55.8万戸となり、割合は約61.5%に達した。エリア別では太陽光発電の発電量が多く、太陽光+オール電化のセット導入による経済的メリットが得やすい中国・四国・九州エリアで70%前後と高い。一方、北海道・東北などでは40%以下のセット採用率となっている。
余剰電力買取制度の開始以降、太陽光発電を単体設置する事例が増加し、オール電化+太陽光発電の割合は減少している。震災後は単体設置の需要が一層増加しており、2011年度以降のセット割合はさらに下がる見通しである。
●エネファーム
【市場規模:2010年 7,400台/2011年見込 14,600台/2020年予測 60万台】
ガス体(都市ガス・LPガス等)事業者がオール電化対抗の切り札と位置付けてきたエネファーム(家庭用燃料電池)は震災後に受注が急増しており、2011年度の設置台数は前年度から倍増する見込みである。主要ガス事業者による既存顧客への訪問活動も徐々に実を結び、新築戸建住宅向けにほぼ限定されていたエネファームの採用先が既築分野にも広がりつつある。新機種投入と量産化によるコストダウンが進むことで、今後も順調な市場成長が見込まれる。
【W発電住宅(エネファームorエコウィル+太陽光発電)】
エコウィル(家庭用ガスコジェネ)、エネファームなどに加えて太陽光発電を設置したW発電住宅は、2010年度累計で10,450戸となった。
エリア別では、関西エリアがW発電住宅全体の55%程度を占めている。関西エリアではエコウィルの普及が進んでおり、W発電住宅ストックの70%でエコウィルが採用されている。一方、関東エリアはW発電住宅全体の20%程度を占めており、エネファームとエコウィルの導入比率は半々である。
●住宅用蓄電池
【市場規模:2010年 65件/2011年見込 850件/2020年予測 20,120件】
震災により停電時も電気が使用できる蓄電池の需要が急増した。これを受けて、ハウスメーカーと蓄電池メーカーが連携し、住宅向け商品として蓄電池の展開を開始。市場の成長が見込まれる。
2010年度までは停電対策用に導入されており、安価な鉛蓄電池の採用率が高かった。2011年度にハウスメーカーから発売されたケースでも鉛蓄電池が選択されているが、これは震災を受けて高まった需要への一時的な対策との見方が強く、2012年度以降はリチウムイオン電池が住宅用蓄電池市場を牽引すると予測される。
住宅形態別には、新築戸建物件が中心と見られ、ハウスメーカーは他社との差別化ポイントとして住宅用蓄電池をラインアップに加えている